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ゆらりと、闇中で鋭い鎌が光った。
どこまでも広がった闇のなかで、黒い布を纏ったやつが鎌をもってそこに立っていた。
その足元に、誰かがひとり。
今にも死刑が執行されそうな光景だった。
自分は順番待ちの死刑囚のように両腕を誰かに掴まれて動くことができなかった。
それでもやめさせたくて、必死に足掻いて叫んでいた。
闇のなかで、自分と、鎌をもった何かと、足元に倒れている誰かの輪郭だけがぼんやりと淡く光っている。
全身を黒で纏った何かの下。
そこに倒れているのはユンファの大切な人達だ。
それは道を示してくれた女性だったり、最後まで自分を慕ってくれた従者、共に戦争を勝ち抜いた軍師、厳格で憧れだった父や今でもかけがえのない親友だったりと、瞬きをするたびにそれは幻のように形を変えていった。
いや、実際にそれは幻だったのかもしれない。
けれどユンファにはそんなことどうでもよかった。
重要なのは自分の大切な人達が今にも振り上げた鋭い鎌によって命を奪われそうになっているということだった。
『ヤメロッ!』
叫んでもそれが音になることはなく。
どれほど力を振り絞っても、両腕の拘束が解かれることもない。
ユンファは必死になって振りほどこうとした。
けれどそれをあざ笑うかのように鎌が容赦なく振り上げられて、一切の迷いなく振り落とされる。
『―――――ッ!!』
…時が、止まったかと思った。息が止まった。
夢なら今すぐ覚めてほしい。
冗談ならやめてくれ。
右手があつい、あつい、アツイ。
不意に今までの強い拘束が嘘かと思うくらい、突然両腕が解放されて、ユンファはそのまま崩れ落ちた。
遅い。まるで己の無力さを言われているようだった。
その歯痒さに、闇の地面へ熱をもった右手を叩きつけた。
焼けるような熱さはわかるのに、何度力いっぱい打ちつけても痛みをかんじることはなかった。
余計に歯痒かった。
そうして暫くして、ぎしりと噛み締めてからユンファは右手を翳してみた。
腕が震えていて、視界もどこか歪んでいたけれど、そんなことさえどうでもよかった。
ゆっくりと開け閉めしてから、その右手をゆっくり鎌の餌食となった大切な人達へ伸ばす。
けどどれだけ伸ばそうとしても、届かなかった。
掴みたいのに、触れたいのに、絶対に届かない。
この右手では、何も掴むことができない。届かない。
けれどそれを認めたくなくて、ユンファは必死に伸ばし続けた。往生際が悪くてもいい、諦めたくなかった。
瞬間、ふわりとやさしい温かさを右手にかんじて、ユンファは目が覚めた。
息を詰める視線の先に、緑の少年がぼんやりとした眼差しでそこにいた。
少年が見つめる先を辿れば、確かに触れ合っている己の手と彼の手。
(――ああ、やっと掴めた)
わけもなくそうかんじて、ユンファはみっともなく溢れそうな涙をぎゅっと耐えた。
「おはよう」
どこか抜けているような彼の声を無視して、触れている手と手を絡めるとユンファは強くその手を引いた。
重さをかんじさせず胸に落ちてくる少年をそのまま強く抱きしめる。
軽いながらの重み。
低い体温。
適度に動く鼓動。
絡めた手。
―確かに、それは全部この腕のなかにある。
ぎゅっと縋るように抱きしめる腕を強めても、少年は何も言ってこなかった。
それでよかった。
声が聞きたいわけじゃなかった。
ただ彼がここにいるならなんでもよかった。
「……よかった」
まだ、この手で掴むことができたんだ。
**********
男の人が泣くのって、ちょっと好きだったりするんですよね。めそめそ泣かれるのはどうかと思いますが…。
男だからって泣くのを我慢することはないんだよ。攻めでも泣いていいんだ。
でも坊ちゃんの涙腺が脆すぎのような気がする…(笑)
ゆらりと、闇中で鋭い鎌が光った。
どこまでも広がった闇のなかで、黒い布を纏ったやつが鎌をもってそこに立っていた。
その足元に、誰かがひとり。
今にも死刑が執行されそうな光景だった。
自分は順番待ちの死刑囚のように両腕を誰かに掴まれて動くことができなかった。
それでもやめさせたくて、必死に足掻いて叫んでいた。
闇のなかで、自分と、鎌をもった何かと、足元に倒れている誰かの輪郭だけがぼんやりと淡く光っている。
全身を黒で纏った何かの下。
そこに倒れているのはユンファの大切な人達だ。
それは道を示してくれた女性だったり、最後まで自分を慕ってくれた従者、共に戦争を勝ち抜いた軍師、厳格で憧れだった父や今でもかけがえのない親友だったりと、瞬きをするたびにそれは幻のように形を変えていった。
いや、実際にそれは幻だったのかもしれない。
けれどユンファにはそんなことどうでもよかった。
重要なのは自分の大切な人達が今にも振り上げた鋭い鎌によって命を奪われそうになっているということだった。
『ヤメロッ!』
叫んでもそれが音になることはなく。
どれほど力を振り絞っても、両腕の拘束が解かれることもない。
ユンファは必死になって振りほどこうとした。
けれどそれをあざ笑うかのように鎌が容赦なく振り上げられて、一切の迷いなく振り落とされる。
『―――――ッ!!』
…時が、止まったかと思った。息が止まった。
夢なら今すぐ覚めてほしい。
冗談ならやめてくれ。
右手があつい、あつい、アツイ。
不意に今までの強い拘束が嘘かと思うくらい、突然両腕が解放されて、ユンファはそのまま崩れ落ちた。
遅い。まるで己の無力さを言われているようだった。
その歯痒さに、闇の地面へ熱をもった右手を叩きつけた。
焼けるような熱さはわかるのに、何度力いっぱい打ちつけても痛みをかんじることはなかった。
余計に歯痒かった。
そうして暫くして、ぎしりと噛み締めてからユンファは右手を翳してみた。
腕が震えていて、視界もどこか歪んでいたけれど、そんなことさえどうでもよかった。
ゆっくりと開け閉めしてから、その右手をゆっくり鎌の餌食となった大切な人達へ伸ばす。
けどどれだけ伸ばそうとしても、届かなかった。
掴みたいのに、触れたいのに、絶対に届かない。
この右手では、何も掴むことができない。届かない。
けれどそれを認めたくなくて、ユンファは必死に伸ばし続けた。往生際が悪くてもいい、諦めたくなかった。
瞬間、ふわりとやさしい温かさを右手にかんじて、ユンファは目が覚めた。
息を詰める視線の先に、緑の少年がぼんやりとした眼差しでそこにいた。
少年が見つめる先を辿れば、確かに触れ合っている己の手と彼の手。
(――ああ、やっと掴めた)
わけもなくそうかんじて、ユンファはみっともなく溢れそうな涙をぎゅっと耐えた。
「おはよう」
どこか抜けているような彼の声を無視して、触れている手と手を絡めるとユンファは強くその手を引いた。
重さをかんじさせず胸に落ちてくる少年をそのまま強く抱きしめる。
軽いながらの重み。
低い体温。
適度に動く鼓動。
絡めた手。
―確かに、それは全部この腕のなかにある。
ぎゅっと縋るように抱きしめる腕を強めても、少年は何も言ってこなかった。
それでよかった。
声が聞きたいわけじゃなかった。
ただ彼がここにいるならなんでもよかった。
「……よかった」
まだ、この手で掴むことができたんだ。
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男の人が泣くのって、ちょっと好きだったりするんですよね。めそめそ泣かれるのはどうかと思いますが…。
男だからって泣くのを我慢することはないんだよ。攻めでも泣いていいんだ。
でも坊ちゃんの涙腺が脆すぎのような気がする…(笑)
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